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所蔵図書・資料の紹介

III  文 庫


2 向坂文庫

(6) 逐次刊行物・和雑誌

 向坂文庫の和雑誌は年鑑・年報・通信類を除いて563タイトルとなっている。ちなみに協調会の和雑誌は453,洋雑誌は282タイトルである。一個人のコレクションとしては驚異的な数である。

 新聞と同様に,雑誌でも明治・大正期のものが“目玉”となっている。何よりも堺利彦旧蔵「大逆文庫」の雑誌が注目される。なぜか創刊号だけがないが,徳富蘇峰が民友社から発行した『国民之友』(1898年)や,堺が創刊した『家庭雑誌』(同),大橋佐平らの『太陽』(1895年),これも堺が創刊した『社会主義研究』(1906年)などがある。なお『家庭雑誌』には堺の号である「枯川」の丸印と「平民社蔵」という3cm四方の蔵書印が並んで押してあり,興味深い。『社会主義研究』には,各号の主要論文にアンダーラインや書き込みがかなりあり,堺自身のものか,向坂のものかはわからない。

 このほか特筆されるものとして,1888年5月に平民社から発行された時事評論・文芸誌の『社会燈』がある。ここでいう平民社とは堺や幸徳らが結成したそれではなく,自由党の星亨らが1884年に創刊した『自由燈』(のち『燈新聞』と改題)が廃刊したのち,それに批判的な同党左派の有志が大阪で設立したものである。『社会燈』は,時の黒田清隆内閣から激しい弾圧を受け,わずか1年3か月の間に『新社会燈』『第二社会燈』『第三社会燈』『日本社会燈』と改題を重ねた。向坂文庫には同じ平民社の『不夜城』などとともに,それぞれ発行された雑誌のバックナンバーが合本されてある。さらに,幸徳が片山潜らの「議会政策」派を批判する目的で創刊した『東京評論』(1900年),石川三四郎・安部磯雄らキリスト教社会主義運動の機関誌『新紀元』(1905年),板垣退助監修の『社会政策』(1910年)などもあげておこう。

 大正期では,大杉栄・荒畑寒村らが1912年に労働者向け文芸思想誌として創刊した『近代思想』(第1次),堺利彦創刊の社会主義思想の啓蒙誌『新社会』(1915年),大杉が『近代思想』から手を引いたのち伊藤野枝らと創刊した『文芸批評』(1918年)などがある。このうち『新社会』は,堺が1914年に創刊した文芸雑誌『へちまの花』を改題したもので,売文社から発行され,1920年1月の第50号まで続いた。向坂文庫の『新社会』は堺が愛蔵していたもので,『へちまの花』と合本され,巻ごとに「堺」の丸印と太字のペンで「堺用」の署名がなされている。

 なお『新社会』は当初,堺の個人経営で発行され,のち荒畑寒村・高畠素之・山川均らの協力を得て共同経営となった。しかし,編集方針をめぐって対立が生じ,高畠は1919年に身を引いて『国家社会主義』を創刊し,堺らは1920年2月に『新社会』を『新社会評論』と改めた。この『新社会評論』は,同年8月に日本社会主義同盟が結成されたのを機に『社会主義』と改め,同盟の機関誌となった。これらの雑誌は堺利彦旧蔵のものである。

 堺利彦・山川均・山崎今朝弥らが平民大学から発行した『社会主義研究』(1919年)も注目される。この『社会主義研究』は,他の社会主義グループに大きな影響を与え,田所輝明らが『前衛』(1922年)を,市川正一らが『無産階級』(同)を創刊した。これらの3誌は1922年7月に日本共産党が結成されたのを機に合併が図られ,1923年に新しく『赤旗』となった。この『赤旗』は第3号より『階級戦』と改題されたが,関東大震災後の社会主義運動に対する弾圧でわずか2号で廃刊を余儀なくされた。『赤旗』にしろ『階級戦』にしろ,向坂文庫のなかでも稀覯誌に入るものであろう。

 このほか大正期の珍しい雑誌として,新婦人協会『女性同盟』(1919年),山崎今朝弥主筆の『平民法律』(1920年),自由人連盟『自由人』(同),種蒔き社『種蒔く人』(1921年),ブルジョア文芸の撲滅を掲げて創刊した文芸誌『シムーン』(1923年)とその改題誌『熱風』などがある。『平民法律』は,無料の法律相談ハガキを綴じ込んで発行した雑誌として知られる。理由は不明だが,向坂文庫のそれには読者からの質問ハガキの束も一緒に綴じ込まれて保存されている。

 昭和戦前期では,向坂自身がそのメンバーであった「労農派」の雑誌が注目される。1926年に鈴木茂三郎らは「中間派左翼の結集」を標榜して『大衆』を創刊した。山川均らはこの『大衆』を吸収し,労農派の機関誌として1927年に『労農』を創刊した。『労農』は1932年に『前進』と改題されているが,向坂文庫には,日本共産党ないし「講座派」の立場に立つ『マルクス主義』(1924年),『マルクス主義の旗の下に』(1929年),『プロレタリア科学』(同),『経済評論』(1934年)や,福本和夫の個人雑誌『マルキシズムの旗の下に』(1926年)などを含め,日本資本主義論争に関係する雑誌はほとんど揃っている。欠号もない。

 労働組合の機関誌も多く,さしあたり,統一運動同盟の機関誌『労働者』(1926年),総連合の機関誌『組合総連合』(同,のち『労働運動』と改題),大杉栄らアナーキスト運動の系譜を引く第5次の『労働運動』(1927年),全協の機関誌『工場』(1930年)などをあげておこう。このうち『労働者』は当研究所でも欠号が多い雑誌であった。またプロレタリア科学研究所や産業労働調査所の機関誌をすべて集めていることも注目される。後者の機関誌『産業労働時報』(1925年)は合本されていて,その表紙には「産業労働調査所」の角印が押され,さらに「野坂参弐殿」との宛名が付されている。向坂がどのような経緯で入手したか謎であるが,主事が野坂参三であったことを考えると,合本されたものは野坂旧蔵のものか,あるいは産業労働調査所のオリジナルな雑誌であったことも考えられる。

 戦後期のものでは,占領期に創刊・復刊した雑誌を中心に339タイトルの雑誌が収集されている。中心になっているのは,日本社会党の『社会思潮』(1947年)や日本共産党の『前衛』(1946年),社会主義協会の『前進』(1947年)など政党・政派の雑誌であるが,各単産と単位労組の機関誌,さらには交通労働研究所の『交通労働』(1946年)や政治経済研究所の『政経月報』(1949年)など,調査研究機関の刊行物も多い。このほか大阪新聞社『新生日本』(1945年),真日本社『真日本』(1946年),政経春秋社『政経春秋』(同),創元社『青年文化』(同),農民社『農民』(同),協同書房『批判』(同)などがある。いずれも他ではなかなか見られないものである。

(吉田健二)

『大原社会問題研究所雑誌』No.494・495(2000年1・2月)、創立80周年記念号より


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